社会医療法人生長会 様/社会福祉法人悠人会 様
「医療・保健・介護、各施設に分断されていたヘルスケア情報を統合データベースで一元化。急性期医療の後方支援機能を強化すると同時に、回復期の診療からリハビリ、介護まで、総合的にサポートする基盤が整備されました。」
複数の医療・保健・介護施設を運営する社会医療法人生長会様(以下、生長会様)と関連社会福祉法人悠人会様(以下、悠人会様)では、治療の精度とサービスレベルの向上を実現するため施設利用者のデータ共有化を進めています。 法人本部事務局 情報システム部 部長 立石 嘉秀氏に、統合データベースを構築した取り組みと経緯について詳しく伺いました。
14におよぶ医療・保健・介護施設と多数の介護事業所を運営。2012年4月に、病院、特養・サ高住、在宅サービスを融合した複合施設をオープン
生長会様および悠人会様について教えてください。
生長会は、大阪府南部の堺市および和泉市を中心に、2カ所の急性期病院をはじめ、クリニックや福祉施設、人間ドック、看護学校などを運営する社会医療法人です。関連の社会福祉法人である悠人会と連携しながら14におよぶ施設を運営しており、医療・保健・介護の「トータルヘルスケアサービス」を提供することをめざして活動しています。
新たに開設した複合施設「ベルアンサンブル」について教えてください。
2012年4月にオープンした「ベルアンサンブル」は、回復期リハビリテーション病棟と医療療養病棟を併せもつ「ベルピアノ病院」(192床)と特別養護老人ホーム「ベルアルプ」(入居80人、ショートステイ20人)、サービス付き高齢者向け住宅「ベルヴィオロン」(65戸)、「地域連携・在宅療養支援センター」が、約10,880㎡という広大な土地に集約している医療・介護の複合施設です。多職業協働による在宅医療提供体制の推進を図る厚生労働省の「2012年度 在宅医療連携拠点事業」にも選ばれています。
「ベルアンサンブル」を開設した背景には、高齢化率が進む中、地域の住民に住み慣れた街で心穏やかに暮らしていただきたいという思いがあり、高齢者の住まいと在宅支援サービスも含めた地域医療や介護だけでなく、地域交流の施設としての役割も担う複合施設として整備しました。
地域密着の「トータルヘルスケアサービス」を提供するために、統合データベースの存在は重要
統合データベースを構築した目的を教えてください。
生長会と悠人会が運営する医療・保健・介護の各施設は大阪府南部地域に集中しており、また「ベルアンサンブル」のように1つの敷地内に病院、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、在宅療養支援センターが集約されることで、これまでなかった医療連携体制を実現できると考えています。
しかし、各施設間で情報が分断されていれば、同じような検査を繰り返すことになってしまったり、隣の施設で説明したことを再び説明しなければならなかったり、ハードウェア面の利便性を最大限に生かすことはできません。
逆に、これまでバラバラに管理されていた施設利用者様のヘルスケア情報をグループ内の施設で共有できれば、治療の精度とサービスレベルをさらに向上させることができます。
ヘルスケア情報の共有は、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
たとえば、入院中に医療ソーシャルワーカーがあらかじめ患者様の治療内容や家族構成を確認しながら療養のアドバイスができるようになります。もちろん、介護施設でもその情報は共有されますので、迅速かつスムーズに介護サービスを提供することができます。
利用者様から見れば、退院後のプランを早期に確認できるので、安心して治療やリハビリに望むことができると同時に、病院から介護施設に移る際のタイムラグも最小限に抑えることができるようになり、回復を早めることも期待できます。

統合データベースの利用を見据え、電子カルテシステムと介護保険業務支援システムの刷新
統合データベースを構築するにあたり、準備したことなどはありましたか。
準備とは異なるかもしれませんが、電子カルテシステムと介護保険業務支援システムの刷新を見据えて統合データベースを構築しました。
電子カルテシステムと介護保険業務支援システムを刷新した理由を教えてください。
電子カルテシステムはちょうど更新のタイミングで、統合データベースのことを見据えて連携ができること、そして24時間365日にノンストップで運用できる信頼性などを要件に導入するパッケージシステムを選定しました。
一方、介護保険業務支援システムに関しては、だれでも使いこなせる操作性を重視しました。また、以前使用していたシステムでは、ほとんどの施設が請求業務にとどまっていたため、全ての施設が記録まで行うことを前提に導入を行いました。
既存パッケージシステムと連携し、医療・保健・介護における利用者の情報をブラウザから閲覧できる統合型データベースを実現
今回、PHRMAKERにより実現したシステムの概要を教えてください。
PHRMAKERを利用して電子カルテを中心とした「病院系システム」と「健診システム」、そして「介護システム」に点在するデータを一元化した統合型データベースを構築しました。
各システムで発生したデータ履歴をヘルスケアヒストリーとして時系列で表示し、介護システムや放射線画像、その他必要なデータなど関連しているシステムの情報をすべて確認することができます。
統合されたデータには、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)で接続されている各施設内のPCからウェブブラウザを利用してアクセスできます。
統合データベースにリンクされている主なシステムを教えてください。
統合データベースに連携されている主なシステムは次のとおりです。
- オーダリング(MegaOak-MI・RA・Is、MegaOak-HR)
- 医事システム(MAPSIBARS、MegaOakIBARSⅡ)
- 看護支援システム(ナース物語)
- 健診システム(G-STEP)
- 介護保険業務支援システム(EHRLINKほのぼのNEXT)
具体的に、どのようなシーンで利用されるのでしょうか。
ケアプランセンターでは、ケアプランを立てる際、介護施設間で利用者様の状況や状態を把握したり、家族状況や連絡先などを確認したりする場合に利用します。
医療福祉相談室の医療ソーシャルワーカーの場合は、患者様の処方、注射、検査結果、看護記録、治療内容などを参照したり、家族状況や連絡先などの確認に利用したりします。
また、事前に当法人で健康診断を受けた外来の患者様の診察時には、健康診断データを参照したり、健診側では、病院での治療効果を確認したりするために利用します。
リアルタイムで各システムから情報を取り込み、PHRMAKER内で名寄せを行いIDを統合
各システムとPHRMAKERが連携する仕組みを教えてください。
一度、患者様のデータを登録すれば、その後はPHRMAKERがリアルタイムに各システムから情報を取り込みデータベースに蓄積していきます。各システムで独自のIDが使用されていますので、PHRMAKER内で自動的に名寄せを行い、内部管理用のIDに統合します。

標準的なPHRMAKERの連携システム接続イメージ
異なる施設間で個人情報を共有することになりますが、セキュリティなどはどのように管理していますか。
まず個人情報を各施設間で共有することに関しては、各施設内にポスターを掲示するなどして、積極的に告知しています。情報の共有に同意されない患者様に関しては、申し出ていただければ他施設で見れないように設定します。
一方、情報漏えい対策という点に関しては、データベースにアクセスできる端末はVPNで接続された施設内のPCに制限されるので、外部からハッキングなどを受ける可能性はありません。
統合データベースにより、最適なケアを提供する環境が整備され、業務の継続性も強化
統合データベースを導入してどのような成果がありましたか。
はっきり目に見える形で成果が現れるのはこれからだと考えていますが、患者様の立場に立ち状況を正確に把握した上で、チームとして治療や介護にあたることができるとともに、それぞれの領域で最適なケアを提供する環境が整ったことは間違いありません。
また、患者様にも統合データベースの存在を知ってもらうことで、安心して治療や介護サービスを受けて頂ければと考えています。
一方、システム面では、統合データベースを構築したことで、業務の継続性を強化することができました。各システムで発生したデータはリアルタイムでサーバに蓄積されるため、仮に各システムが停止した場合でも統合データベースのデータは閲覧することができるので、診察などの業務を継続できるというのは大きな導入効果のひとつです。理想的なシステムの分散化を実現できたと考えています。
システムを利用する職員の反応はいかがですか。
リアルタイムで情報が得られるとともに操作も容易で、特に病院の診療現場や医療福祉相談室やケアプランセンターからはとても好評です。
今後の拡張予定と日本事務器への期待
日本事務器への期待などがあればお聞かせください。
治療の精度や患者・利用者の利便性向上だけでなく、経営の安定化も重要なテーマです。今回構築した統合データベースで現場の業務に必要な情報の一元化は実現されましたので、今後は、経営情報を含めた一元管理ができるようにPHRMAKERを発展させていっていただきたいと思います。
日本事務器はシステムの構築や導入期間が短期化する中、当医療法人の要望に柔軟かつ迅速に対応してくれるのでとても頼りになる存在です。今回の統合データベースや電子カルテシステム・介護保険業務支援システムの導入に関しても、技術力とソリューション力の高さを再認識しました。
今後も、これまでと変わりなく丁寧で誠実なサポートを期待すると同時に、情報交換をしながらWIN-WINの関係を築いていければと考えています。今後ともよろしくお願いいたします。
- 取材日時 2012年8月
- 記載の施設名は、取材時の組織名です。